家族信託の具体的なデメリットは何ですか?

一般的に次のようなことが家族信託のデメリットとして指摘されています。

  • 家族のなかに受託者としての適任者がいない(受託者の不存在)
  • 家族間の不満や不信感からトラブルに発展する可能性がある(家族間の合意形成の失敗)
  • 受託者の責務は財産管理を行うことであって受託者に身上監護権はない(身上監護権の欠如)
  • 信託を設定しても節税対策にはならない(税務面での問題)
  • 家族信託の設計に初期費用と時間がかかる(コストと時間の問題)

受託者の不存在

家族信託では、通常は受託者を家族(または親族)の中から選ぶことになります。
典型的な例では、高齢の父が財産を息子に託し、息子が受託者として受益者(兼委託者)である父のために信託財産を管理・運用・処分するというものです。

受託者は、信託財産を管理していく上で大きな責務(責任と義務)を負うことになります。具体的な受託者の義務等については信託法第29条から第39条で規定されていますが、日頃から資産管理を専門に行っているプロと違って、自分の日常の仕事をこなしつつ、受託者としての責務も果たさなければならないことを負担に感じる方もいらっしゃいます。そのように感じる方はその負担の大きさから受託者への就任を拒むことがあります。

信託法第37条要約)

(帳簿等の作成等、報告及び保存の義務)

  • 信託財産に関する帳簿等の作成義務
  • 貸借対照表、損益計算書等の作成義務
  • 帳簿等の内容について受益者への報告義務
  • 帳簿等の10年間の保存義務

また、受託者としての適性の問題もあります。例えば、受託者が個人的に多額の債務を抱えていて消費者金融から督促の連絡が頻繁にかかってくるような場合です。

受託者には受益者のために信託財産を管理する責務がありますので、財産を受託者の個人的な利用目的のために使うことはできません。
ですが、受託者に対する監督権限を有している受益者もプロではないので、受託者が作成した帳簿等を見ても、業務が適正に行われているかを判断することは難しいです。

このような状況のなかで、ほかに受託者のなり手がいなければ、信託監督人を選任して受託者を監督してもらうしかありません。尚、報酬を得る目的で弁護士や司法書士などの専門家が受託者に就任することは現在の法律ではできないことになっています。

家族間の合意形成の失敗

家族信託の信託行為のうち最も一般的な契約信託(信託契約書の締結により設定する信託)は、委託者と受託者の2者間の契約で成立します。そのため、当事者以外の者が知らない間に信託が設定されていたということがあります。

信託の契約当事者以外の家族にとってみれば、受託者が委託者の財産を独り占めにして勝手に使っているのでは?と疑いたくなるのも仕方がない状況です。受託者に対する家族の不満や疑念がトラブルにつながることはよくあります。

このような状況を生まないためにも、信託を設定する前の家族会議には家族の全員に参加してもらい、家族会議を通じて疑念を払拭し、家族間の助け合いの精神を醸成することが家族信託を設定するうえでとても重要になります。

身上監護権の欠如

家族信託の受託者の役割は、委託者から託された財産を信託行為で定めた目的に従って管理・運用・処分し、受益者に対して経済的な利益を還元すること、つまり「財産管理」が主な役割になります。

受託者には、成年後見人のような「身上監護」の権限はありませんので、施設への入所契約や介護サービスの申し込み契約などはできません。

ここで「できない」というのは、法律上の権限として当然には保証されていないということであって、絶対にできかというと実際にはそんなことはありません。また、本人が認知症になった場合には成年後見人を選任しないと施設への入所契約ができないかというと、そのようなこともなく、家族の者が本人に代わって入所契約を取り交わしているケースをこれまで何度も目にしています。契約当事者と施設利用者が異なったとしても、施設側も営利目的の民間会社ですから、家族が本人に代わって(あるいは本人の財産の中から)入所費用をきちんと払ってくれるのであれば問題ないということなのでしょう。

したがって、デメリットと言えるほどの重大な問題ではなく、受託者が家族の場合は、信託の受託者としてではなく、家族として手続をすれば特に問題ないケースがほとんどだというのが実際のところです。

税務面での問題

「信託を使えば税務面で何かメリットがあるのではないか」ということを期待して信託を検討している方もいるようですが、残念ながらそのようなメリットは特にありません。2007年(平成19年)に信託法が改正され、そこから民事信託の利用方法が積極的に検討され始めましたので、まだ比較的新しい制度ではありますが、もし信託にそのようなメリットがあれば、もっと大々的に宣伝されて信託が今よりもずっと我々の生活に浸透していたはずです。

信託において税務面で問題となるのは、信託財産賃貸不動産だった場合の「損益通算の禁止」です。
不動産賃貸で収入を得ている人が、賃貸不動産の運用から生じた損益を他の所得から生じた損益と相殺して、利益を圧縮できれば所得税額を軽減する効果が期待できます。

賃貸不動産を「信託財産にしている場合」と「信託財産にしていない場合」では、損益通算の可否が異なります。
信託していない場合には、その賃貸不動産から生じる所得は不動産所得に該当し、もし損失が生じた場合には他の所得と相殺できます。つまり損益通算が可能です。
一方、賃貸不動産を信託した場合、その賃貸不動産から損失が生じても、その損失はなかったものと考えます。したがって、この場合は損益通算ができません。

また、青色申告の届出をしている場合、通常はその年に計上した損失を翌年以降3年間繰り越して、翌年以降の利益と相殺することで利益を圧縮することができるのですが、賃貸不動産を信託していた場合、「その損失はなかったもの」とみなされるため、損失の繰越控除をすることができません。

賃貸不動産の損益通算の具体例については、こちらをご確認ください。

参考までに、英米法圏ではプロベートを回避する目的で生前信託が利用されます。
プロベートは英米法圏特有の制度で、裁判所が任命した遺産管理人等が、被相続人が単独名義で所有していた遺産(不動産や預金)の調査を行い、そこから債務の弁済や税金の支払いを経て、最終的に残った遺産だけが相続人に引き渡される手続のことです。これには、①資産が長期間凍結される、②手続に関与する専門家の報酬や裁判所の費用が高い、③遺産の内容が世間一般に公開されるなどのデメリットがあり、このプロベートを回避する目的で信託(生前信託・リビングトラスト)が利用されます。

コストと時間の問題

信託の設定にはどうしても時間がかかります。書店やインターネットなどで手軽に入手できる信託契約書のひな形を利用すれば比較的短時間でできるかもしれませんが、ある家族が抱える悩みは他の家族の悩みと同じように見えても決して一律ではなく、色々な問題が複雑に絡み合っていることもありますので、それらを丁寧に拾い上げて解決の糸口をみつけていく必要があります。

信託はこのようにオーダーメイドで設計する必要があるため、一般の方が自分たちだけで設定するのは難しく、専門家に関与してもらうことも必要になってきます。そのためどうしても設定するまでに初期費用がかかってしまいます。

家族信託では、受託者への報酬は任意ですので無償とすることも可能です。受託者の責務は大きいため業務に対して報酬を支払うことも検討すべきだとは思いますが、報酬は必ずしも金銭である必要もなく、そこは家族間で柔軟に決めることができます。
例えば、賃貸不動産のような収益物件の管理運用であれば、常に一定額の報酬を支払うのではなく、「報酬は生じた利益に対する一定の割合で支払い、利益がでなかったり損失がでたときは報酬はない」としたり、あるいは、委託者である父が所有している財産のうち信託財産以外の固有の財産について、息子との契約で「受託者の報酬の代わりとして、無償でいつでも当該財産を自己のために使用することができる」とすることもできます。

信託契約書を作成する際の工夫次第では、成年後見人として専門家が選任されたときのように、ランニングコストが必ずかかるという状況を回避することも可能です。