自社の株式を信託すると社長は会社の経営から退くことになってしまいますか?

自社株式の大半を後継者に信託した後でも、実質的な経営権をオーナー社長に残しておきたい場合は、黄金株(会社が行った重要決定事項を1株で否決できる株式で「拒否権付種類株式」といわれます)を発行することで解決できる場合があります。黄金株1株をオーナー社長が保有することで、会社経営の最終的な判断はオーナー社長が行うことができるのです。

2025年6月、日本製鉄株式会社が北米日本製鉄を通じてアメリカのUSスティールを買収して子会社化するにあたり、会社の重要事項の決定について拒否権を行使できる黄金株(拒否権付種類株式)をアメリカ政府に譲渡したことで買収が成立しました。これにより、アメリカ側は、日本製鉄が行った重要事項の決定がアメリカの不利に働くと思えば、拒否権を行使して決定を覆すことができることになります。

このように黄金株を発行することで、通常の会社経営は後継者に任せておきながらも、会社がおかしな方向に舵を切ろうとしたときには、オーナー社長にその決定を覆すことができる権利を留保しておくことが可能になるのです。

一方で、万が一、オーナー社長が認知症などで正常な判断ができなくなった場合でも、オーナー社長は自社株式の大半をすでに後継者に信託しているので、後継者は株主の権利を行使して会社の重要決定を行うことができます。もし、この時点でオーナー社長が株式の大半を自ら所有していたとすると、株主総会決議で有効に賛否の意思表示を行うことができないため、法律で必要とされる賛成票が得られず、会社は重要な決定を行うことができないという大変な状態になってしまいます。

オーナー社長が高齢になってきた場合には、会社の経営に対する最終決定権を保持しつつも、万が一の時には、会社が意思決定できずに身動きが取れない状態にならないよう対策をしておくことが重要です。

「現金」や「不動産」と並んで「自社株式」が家族信託に利用されるのには、このような理由があります。

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